| おわりに
現代、メディアという言葉が聞かれる様になって、実のない<版>が周囲を取り巻く様になってきた。例えば記号を読み取るカードというものも<版>である。マクルーハンは『人間拡張の原理』のなかで、これまでのテクノロジーが身体の肉体的な拡張なのに対して、今日は大脳を含めた中枢神経を外在化して「私の内部」に向かって拡張していると示唆している。現在、<版>の世界は、写真やコンピュータ・テクノロジーを用いた電子出版の時代を迎えている。出版された画集やポスター、CD-ROMやインターネットによって「複製」され、流通する「メディア」と美術もまた無関係ではない。
今年、文部省から教育職員免許法施行規則(昭和二十九年文部省令第二十六号)の一部を改正する省令の施行について通知があった。教育職員免許法等の一部を改正する法律(平成12年法律第9号)の施行に伴い、美術教科の普通免許状の授与を受ける場合の単位の修得方法等の改正も掲げられた。その留意事項として、平成10年12月及び、11年3月の学習指導要領の改訂を踏まえ、中学校並びに高等学校教諭の普通免許状に係わる課程認定を有する大学は、それぞれの教科に関する科目について、改正省令による改正後の規定に従った教育内容に変更する必要があると記述されている。美術教科に関する科目については第三条と第四条の美術の項中にある「絵画」や「デザイン」の下にそれぞれ「(映像メディア表現を含む。)」を加え、「美術史」の下に「(鑑賞並びに日本の伝統美術及びアジアの美術を含む。)」が加えられている。
版画を<版>の画と考え、<版>を即、「複製物」や「メディア」と結びつけた場合、「版画」の教育内容は、限られた講義時間の中で即、「映像メディア表現」にすり替わってしまうことを、論者は危惧している。新しいテクノロジーが出てくると、必ず前のものが否定されるという現象が起きる。しかし今日、実のない版というものが実態的なものに対してどのような影響を与えているかを、美術との関わりから考えることも必要であろう。そこで本稿では、<版>の問題を「複製物」や「メディア」と違う視野から措定した。「人」と「人」、「人」と「もの」とが「情報」を介して接触することである。
体感的距離で接し、互いの「ものの見方」を確かめあうことが出来た「メディア」のあり方は、徐々にマスメディア時代に対応し、大衆への大量出版をめざす工場型機械へと移行してきた。今日、テレビ、パソコンの画面のように多種の「複製」が急速に普及し、携帯電話やインターネットによって社交関係を保つようになると、一層、自己や他者の「身体」に対する自覚が問われてきている。
media(メディア)はmedium(メディウム)の複数形である。メディウムは、「霊媒者」という意味をもっている。人間と神、人間と自然、人と人との様々なコミュニケーションの媒体として、芸術は担ってきた。しかしそこには送り手と受け手、操作する側や情報そのものの主体性と、世界の深奥な部分との関わりが必要であろう。
ポンティ(Maurice Meleau-ponty、1908-1961 )は、『目と精神』(註24:L'Geil et l'esprit ,Gallimard ,1964/ 滝浦静雄・木田元訳、みすず書房、1966年、260頁)のなかで述べている。
身体を生きたものにするには、その諸部分の並列的寄せ集めではない、といって、自動機械のなかにどこからか精神が天降ってくるということでもない。いずれにせよこうした考え方は、まだ、身体それ自身には<内>もなければ「自己」もないという前提に立っているのだ。人間の「身体」があると言えるのは、<見るもの>と<見られる者>・<触るもの>と<触られるもの>・<一方の眼>と<他方の眼>・<一方の手>と<他方の手>のあいだに或る種の交差が起こり、<感じー感じられる>という火花が飛び散って、そこに火がともり、そしてその火が絶え間なく燃え続ける時なのである。」(メルロ・ポンティ『知覚の現象学』竹内芳郎、木田元、宮本忠雄訳 みすず書房 1974年 376頁)
<版>はまさしく「交差」や「絆」と関わるものである。<版>によって「うつす」ことの意味はしかし、「うつすこと」と「うつされたもの」の間に横たわったprintやcopyの量よりも、「うつす」という行為により人間やものをよりリアルに感じ、いかに「火を燃やし続けるか」ともいえないか。そして見えなかった新たな「ものの見方」が鏡のように反対方向の視線から投げかけるためには、「誰であるのか」という対象の問題を、現象学的な捉え方を超える必要もあろう。発信者と受信者が、相互にメッセージを交換することができるのは、「主体」があってこそなのだから。
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参考文献:
辞書・辞典類
『漢字の起源』/ 角川書店
『大辞林』第2版 / 三省堂
『LIGHTHOUSE』/ 研究社
『英語語源辞典』/ 研究社
『スタンダード英語語源辞典』/ 大修館書店
『漢字絵とき字典』/ 下村昇著 論創社 2000.5.25初版発行
『字統』/ 白川静著 平凡社 1984
『大百科事典』/ 平凡社
文献
坂本満『世界版画大系』ジァン・アデマール、坂本満、吉川逸治編 筑摩書房 1972−
『印刷文化史』/ 庄司浅水著 印刷学会出版部
『版画事典』/ 室伏哲朗著 東京書籍
『漢字の起源』/ 角川書店
『大辞林』第2版 / 三省堂
『LIGHTHOUSE』/ 研究社
『英語語源辞典』/ 研究社
『スタンダード英語語源辞典』/ 大修館書店
『漢字絵とき字典』/ 下村昇著 論創社 2000.5.25初版発行
『字統』/ 白川静著 平凡社 1984
『大百科事典』/ 平凡社
文献
『世界版画大系1ム版画概論1 坂本満ム』/ 筑摩書房
『版画藝術97』阿部出版 1997,9,1発行
1.『近代日本の版画』小野忠重p12より
2.「西洋木版に就いて」山本鼎、『平旦』第3号(明治38年11月発行)第4号、(明治39年1月発行)。『平旦』に関しては「『平旦』目録及び解題」森登、『神奈川県立近代美術館1994粘土・年報』平成4年(1996)3月31
日発行を参照。
*『近代日本の版画』小野忠重 三彩社 昭和46年2月15日初版
*『世界版画1ム版画概論1 坂本満ム』 筑摩書房
*『カラー版 浮世絵の歴史』小林忠監督/美術出版社/1998,5,10 発行
*『恩地孝四郎版画芸術論集 抽象の表情』 恩地孝四郎著 恩地邦郎編
阿部出版 19992.2.1発行
*『世界版画、1ム版画概論1 坂本満ム』/ 筑摩書房
*『版画事典』 / 室伏哲朗著 東京書籍
* 『版画ム近代日本の自画像ム』 / 小野忠重著 岩波新書
* 『別冊太陽 世界名作版画集』/ 坂本満・佐川美智子編集
* 『すぐに役立つ美術レッスン3 木版画 その基本と実際』 / 黒崎彰著 六耀社
* 図録『日本の版画I1900-1910 版のかたち百相』
1997.9.9-10.12 千葉市美術館
1) 巖谷國士「シュルレアリスムは何か」メタロ−グ、 1996、 pp.18-19
2) ブルトン「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」、岩波書店文庫、1996年、p.37
3) サルトル著 加藤周一・ 白井健三郎訳 「文学トハ何カ」人文書院、1964年
4) 谷川渥 「鏡ト 皮膚」 ポーラ 文化研究所、 p157,1994 年
§参考文献
1) ヴァレリ−著 菅野昭正訳 「固定観念」、 『ヴァレリ−全集3』 筑摩書房、1982年
2) 谷川渥 「鏡と皮膚」 ポーラ 文化研究所、 1994年
3) M マクル−ハン著 後藤和彦訳 「人間拡張の 原理」 竹内書店新社、 1967年 |
<版>
| 版行(はんこ) |
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| 素材−−−−−−−−−−行為−−−−−−−−結果(もの) |
| 木の板 |
彫る(素材の抵抗感) |
刷ったもの |
| 「字を書く板」 |
「うつしとる」 |
複製 、鏡像 |
| 「木を切り分けて作った偏平な板」 |
面と面の接触 |
拓、印、刻印、影響 |
premere「圧迫する、圧搾する」
→→ print(英)「印す、跡を付ける」 「印刷、出版物、新聞、版画、しるし、跡、模様」
impression(英)「印を押すこと、押印、刻印」「痕、跡、印刷」「感動を与えること、感銘、印象、」
reprint(英)「再版、重版、増刷、復刻版」
edition(英)「本、雑誌、新聞などの版、全発行部数」
copies(英)「写し、複製、印刷原稿」
block(英)「版木」
plate(英)「金属版」
srampfen(仏)「叩く」→→estamp(仏)「印刷工程」
graben (仏)「彫る」→→-gravure ( 仏)「原版」
graphein (仏)「書く」
druck(独)は「圧力、押す、印刷、版本、複製画」
graphik(独)「書画、陰刻、版画、印画」
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