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福島大学 渡辺晃一

2.西欧語の「絵画」との関わり

 日本語の「絵画」は、一般に西欧語において、以下の訳語を適合させている。

picture〔英〕、painting 〔英〕、 Peinture 〔仏〕、 tableau〔仏〕、Malerei〔独〕、Zeichnung 〔独〕

「絵画」を意味する英語はpictureである。このpicture〔英〕は、ラテン語で「描かれたもの」の意味から派生した語である。「描かれたもの」を指し示すpictureは、「絵、絵画」の他にも、写真、(映画、テレビの)画面、さらに(心に描く)像のimage や 観念のideaという言葉、さらには「(絵のように)美しいもの」「生き写し、化身」、situationと同じような「状況、事情、様子」などの幅広い意味ももっている。

 pictureを形容詞で用いる場合は、「絵に描く、描写する」の他に、「心に描く、創造する」という意味もある。

 一方、英語には「描かれたもの」ではなく、「描くこと」を示す別の言葉がある。painting 〔英〕 は 「絵をかくこと、画法、ペンキ塗り」を意味し、「絵画、油彩画、水彩画、塗装」とも訳される。

 painter 〔英〕で「絵かき、画家、ペンキ屋」という意味がある。また、paint〔英〕という言葉を名詞で用いる場合は、「ペンキ、塗料、絵具」の他に「(軽べつ的に)化粧、口紅、」なども示す。動詞で用いる場合は、「色どる、ペンキを塗る、彩る、絵の具でかく、絵を描く」の他に、「(軽べつ的に)化粧をする、生き生きと描写する、言葉で描写する」という意味も持つ。

 次にフランス語の「絵画」は、pictual(e)、 peinture 、tableau である。pictual(e)は、形容詞で 「絵の、絵画の、絵画的な」対象に限定して用いられており、photo「写真術」とは区分される。(art pictural でさらに「絵画芸術」と訳される。)peinture は、英語のpaintと重なる語である。「絵、絵画」の他に同じく「塗装、ペンキ」の意味がある。

 一方、pictureという、身体の内部に秘められた「想い」、paintという身体的な行為を指し示した「絵画」に対して、フランスには、物理的な「存在」としての「絵画」を示す語、tableau がある。tableau (タブロー)は、古くは板絵、板に描かれた絵を意味していた。tableという語が、「テーブル、卓、台、盤」や「表、一覧表、書板、平板 」、さらし「(哲学用語で)白紙状態」を意味することとも関連する。tableauにはまた、「絵、絵画」の他に、「描写、(芝居の)場面、黒板、盤、会員名簿、一覧表、図表」などの意味を含んでいるのもtableとの関連から納得できる。

 先節で、「絵画」の定義を重層的な構造から扱った考え方は、このtableau との関わりからも考えられるであろう。英語のpictureが、「描かれたもの」という描画行為を意味していたのに対して、フランス語は、tableauによって「物理的なもの」、状況的な場などを「絵画」という語に包含しているからである。

 ではドイツ語の「絵画」は、どのような言葉か。

 das Bild 、das Gemalde 、die Malerei があげられよう。Bild は、「絵、像」の他に「写真、光景、心像」という意味で用いられる。英語のpictureに相当する語である。絵画のみならず、彫刻、映像のいずれにも用いられる一般的な「絵画」を示す語である。

 Gemaldeは、彩画した「絵画」という意味で、油絵、水彩画という言葉を通して用いられる。絵画展は、Gemalde - ausstellung、画廊はGemalde -galerie 、絵画収集はGemalde -sammlung と言うように、フランス語のpeinture とtableauを重ねたような意味あいを持つ。一方、英語のpaintingと重なるのは、Gemaldeよりも、Malerei である。Malereiと関連する語としては、Malerで「画家、絵かき、ペンキ屋、塗装工」を示す。Malenではpaintのように「絵を描く」の他に、「ペンキを塗る、口紅を塗る」という意味が連なる。なお美学事典4)(p250)には、「絵画」の定義を示す説明が、Malereiの解釈と関連して記述されている。例えば、マックス・クリンガーは、絵画の中には色彩を基調とした、狭義の絵画あるいは彩画としてMalereiを示し、それを輪郭を本位とするZeichnungに区分する芸術形式の様式的区別を記したという。Zeichnungとはドイツ語で、「絵、素描、スケッチ」を示し、「模様、斑紋,叙述、署名」という意味ももつ語である。動詞のzeichnenでは「(線)で描く、デッサンする」の他に、「線画を描く、図面を引く,印(記号、符号)をつける,サインする、署名する」という意味が連なっている。つまりクリンガーの解釈から考えると、彩画としてのMalerei「絵画」は、Zeichnung「線画・素描」と区分されることになる。

 一方、ヴェルフリンは、「絵画」をmalerisch(「絵画的」)とlinear(「線的」) という様式的な対立で示した。もともとドイツ語のmalerisch には、「絵画の、絵画のように美しい」という意味がある。彼が述べた「絵画的」というのは、物象相互の限界線を没した全体を現そうとする表現を示す。一方、「線的」というのは、物象を明確に輪郭づけ、あたかも手で触れ掴みうるように表現したものをヴェルフリンは指した。ドイツ語でlinear は、「直状の、線的な、線描の」という意味が連なっている。linearの語根は、linie 「線、ライン」であり、それがlinguistik(「言語学」)へとも繋がることを考えると、malerisch をクリンガーのようにZeichnung「線画・素描」と対峙した考え方も、「言葉」と疎遠な関係を想定できる。先節の「定義」のなかで、「絵画」を「言葉や記号によらず」と述べた背景には、linearと対峙したmalerischの解釈が強く関わっているようにも思われる。

 なおここで、「絵画」と対峙された「線画」と「素描」との相違についても、あらためて読み解いていく必要があろう。「線画」という意味を含みもつが、「素描」は色彩や陰影をも伴うなうことがある。「線画」と「素描」は、必ずしも同一ではない。5)(しかしながらフランス語で、dessin にlineaire(「線の、線上の,線形の」)を加えた「線画」という言葉がある。lineamentには、「線、輪郭」の他、「(計画、作品などの)大筋、あらまし」というdessinとも重なる意味を有している。dessin もまた「計画、意図、構想」を語根とする。さらにフランス語のデッサン(dessin) は、英語のドローイング(drawing)とも関連して、どれも基本的に「線を引く」という意味と結びついてくる。これらの背景から考えると、「線画」と「素描」は全く違う言葉とも言えない。)

 「絵画」という言葉の定義を考える上で、ここであらためて「線画」との関わりから、「素描」という言葉のもつ全体像をつかみとることもまた必要であろう。


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