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【21世紀のスポーツシーンを変える−総合型スポーツクラブ−】
日本のスポーツは今、大きな転換期を迎えようとしている。
少数精鋭化する「学校運動部」が、結果として一般の児童・生徒を排除する傾向に向かっていること、仲間内だけの「地域スポーツクラブ」が多様化する地域住民のスポーツ欲求に十分応える場とはなっていないこと、これまでの「スポーツ振興」がスポーツ関係者だけの振興にとどまっており、本来主人公であるべき住民からはますます遠ざかってしまっていることなど、わが国のスポーツ事情は、スポーツをしたいと思ったときに、誰もが年齢や技術レベル・目的に応じたクラブ、またはスポーツを選択することができない状況にあるといってよい。
こうした中で、わが国のスポーツシーンを大きく変える切り札として期待を集めているのが「総合型スポーツクラブ」である。そのイメージは徐々に浸透しつつあるものの、いざ自分達の地域で総合型のクラブをつくろうとした場合、なかなか思うように進んでいかないのが実状のようだ。
「施設もなければ、指導者もいない、限られた予算で余裕がない」といった「ないない尽くし」への不満や「どうせやっても無駄である」といったあきらめ感、更に「余計なことはできればしたくない」といった消極的な現状維持志向など、人々の「総合型クラブ」に対する意識の希薄さに原因があると思われる。つまり、クラブづくりを疎外する最大の障壁は「モノ」でもなければ「カネ」でもなく、「ヒト」であることを痛感させられるケースが極めて多い。
言い換えれば、こうした状況の中で、地域スポーツ推進の中心的存在である体育指導委員がどういった立場をとるかが「クラブづくり」を成功に導くかどうかの鍵を握っていると言っても過言ではない。制度やシステム・施設など、ハードに関する部分は「変えよう」と思えば、変えられるものである。しかし、人々の意識はそう簡単には変えられない。大切なことは、先頭に立って自らも「一緒に変わろう」といった認識をもった体育指導委員がその地域の中にどれだけいるかにかかっているといってもいいだろう。
【総合型スポーツクラブづくりはそんなにむずかしくない!】
第一に、「総合型」といった言葉にこだわらず、10年先、20年先のわが町のスポーツシーンを夢見ることから始めてみよう。あまり形式にこだわらず、「この指とまれ方式」で夢を語り合う仲間を募り、それぞれの立場を意識せず、率直で自由な発言のできる場や機会をたくさんつくってみることだ。そうすることによって、結果として「総合型クラブづくり」への気運が盛り上がり、人々の意識が徐々に変わっていくと思われる。ただし、その過程で現状認識(危機意識の共有化)を行うことを忘れてはならない。「これでいいのか、わが町のスポーツ!」「これでいいのか、わが町の体指!」と自らの活動を振り返ることが大切である。たとえば、昭和20年代から30年代初期に多く設置されてきた市町村体育協会は、現在、活動の停滞化や住民の「体協離れ」といった問題を抱えている。栃木県のある町では、「これでいいのか、わが町の体協!」といったキャンペーンを展開し、行事・競技会中心の体質を転換し、住民の多様なニーズに的確に応えることができる組織として「総合型スポーツクラブづくり」を志向している。体育指導委員制度が発足して40年目を迎えようとしている今、21世紀のスポーツシーンを変えるのは我々体育指導委員の役目であるといった攻めの姿勢を示すことが大切ではないだろうか。具体的には、これまでの学校中心、行政主導、単発的な一日行事型のシステムを見直し、地域に根ざした多種目型の公共性を伴った「総合型スポーツクラブ」づくりを推進し、体指をそのキーパーソンとして明確に位置づけるといった方針を打ち出すことが重要であると私は考える。
第二に、協力者、理解者を得ることである。わかってくれる住民、隠れたファンは必ずいる。子供会や自治会、PTAや青少年健全育成会、老人会や婦人会等の様々な自治組織をうまく巻き込んでいくことが大切である。さらに、市町村体育協会や種目別競技団体、スポーツ少年団や学校運動部、実業団や既存の地域スポーツクラブとの連携を図り、最終的には「総合型スポーツクラブ」といった夢を形にするための長期計画及び一年毎の短期計画を立てることである。新たな時代に向け、従来の枠組みに固執しない柔軟な対応がコーディネーターとしての体育指導委員に求められてくるだろう。
第三に全国にアンテナを張ることである。「総合型クラブづくり」に思いを馳せるたくさんの仲間がいることを知るだろう。
【総合型スポーツクラブのレシピ】
総合型スポーツクラブをつくるための決まった材料といったものがあるわけではなく、いくつかの材料を組み合わせて、それぞれの地域の特性に見合ったクラブを作ることが可能である。
(1)クラブ設立の理念、例えば「総合型クラブ」を基盤としたシステムへの再構築が、21世紀のわが町のスポーツ振興の鍵を握っていることなどを設立趣意書に明確に示すことが重要である。
(2)数値目標、例えば3年後、5年後の会員数などを具体的に示すことが大切である。
(3)自転車で30分以内の距離に、会員が希望するスポーツ種目と年齢や技術レベル、目的に応じた指導が受けられるクラブがあることが望ましい。
(4)個人の自由意志に基づき、それぞれの生活のリズムに合わせ、わずかな会費で、気長に続けられるようなクラブであることが望ましい。ただし、会員はサービスの受け手であってはならない。あくまでも自らの手によってクラブを運営し、創りあげることが大切である。
(5)会員相互のコミュニケーションの拠点としてクラブハウスは必需品である。クラブハウスに行けば必ず誰かと会える、それが楽しみでクラブ通いが日課になることは十分考えられる。
(6)継続的な活動を行うためにも、公共スポーツ施設(学校施設開放も含む)の管理運営業務をクラブが請け負うことが、今後重要になってくる。
(7)そのためには、法人格を取得することが必要である。経営学者ドラッガーによれば、アメリカの成人のうち2人に1人が、ボランティアとしてNPO(非営利組織)に所属し、この第二の仕事に週平均5時間を使っていると言われている。またドイツでも、本職の傍ら社会奉仕活動を行うボランティア、いわゆる「名誉職」(Ehrenamt)の存在が大きく、現在、全国で約1千2百万人(人口の約17%)のボランティアが活躍中だと言われている。わが国でも、NPO法案の成立により、法人格を取得するクラブが増えていくものと思われる。
(8)行政を巻き込むこと。行政にはこうした住民主体のスポーツクラブを支援し、低料金システム、公共性を維持するバックアップ体制を担う責任がある。また、総合型クラブを地域の公共の福祉に貢献する団体として明確に位置づけ(社会的なポジションの付与)、スポーツ施設の優先利用、税制上の優遇措置、免税措置等を検討すべきである。
(9)有資格者の配置を促進するとともにクラブ内から適任者を発掘し、公認の資格を取得させるような配慮が大切である。
(10)わが国のスポーツ施設の半数以上を占める学校体育施設、そして学校運動部や指導者を学校といった枠の中に囲い込むのではなく、地域全体の共有財産として活用することで大きな一歩を踏み出すことができる。
(11)地域のスポーツ振興の重要な担い手である市町村体育協会や体育指導委員をクラブづくりのキーパーソンとして位置づけることによって、生きた団体、人材として有効に活用することができる。
(12)トップアスリートを育成するための一貫指導体制を確立するために、近隣地域のクラブとの連携が必要である。
(13)ドイツの例をみた場合、スポーツクラブの財源は、会費60%、補助金20%、寄付10%、イベントや講習会、バザーの開催等自助努力で10%ぐらいが適当であろう。1、000人規模の会員によって安定した経営をすることができる。
(14)人々の各ライフステージにおけるスポーツとのかかわりは、決して「より速く、より高く、より強く」といったオリンピック精神に色どられただけのものでもなければ、決して身体能力に秀でた人のためだけのものでもない。クラブを市民生活に溶け込ませるためには、スポーツを文化としてとらえることが大切である。
【スポーツ観の転換がわが国の今後の課題である】
これまでのわが国のスポーツは、「勝つための・健康のための・仲間づくりのための・宣伝のための・地域づくりのための」といった「注釈つきのスポーツ」が主流を占め、スポーツ本来の全てのものから独立・自立した「スポーツ文化」を享受する段階には至っていない。また、これまでのスポーツ観または指導者の意識は「歯をくいしばって頑張ることが美しい」といったオンタイムのイメージが強く、「ゆったりとくつろいだ気分でスポーツを楽しもう」といったオフタイムのイメージには程遠いものである。
「総合型スポーツクラブ」には、そういったスポーツに対する考え方を大きく転換し、人々に新たなライフスタイルの創造を提供する可能性があることをもっともっと多くの人に知ってもらいたい。
最後に、繰り返しになるが、現在のわが国のスポーツ事情は、「30分ほど自転車を走らせれば、そこに希望するスポーツ種目とすてきな指導者がいる」といった当たり前のことが当たり前ではない状況にある。例えば、入った学校によって種目が決まってしまうとか、従来のスポーツクラブが「単一種目型で閉鎖的、少数の固定化されたメンバーによる競技志向型」といったイメージが一般的であることなど、わが国のスポーツ振興の未来図を描く上で、多くの問題点を抱えていることは誰もが認めていることである。
「総合型スポーツクラブづくり」は決して他人事ではない。
「人は人、自分は自分」といった縦割り的な考え方を捨て、体指や体協、スポ少や学校、そして行政は、これまで培ってきたノウハウを「総合型スポーツクラブ」といった共通の土台づくりのために結集させ、それぞれが協力・連携することによって、わが国が目指している「誰もがスポーツに親しみ、かつ世界レベルの選手・チームを輩出する基盤づくり」に一歩近づくことができるだろう。
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