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地域スポーツ推進研究会編『スポーツクラブのすすめ』、ぎょうせい、1999年

これからの望ましいスポーツクラブ(総合型)の在り方

 わが国のスポーツは、主に学校を中心に行われてきた。そのため、地域に根ざしたクラブ組織の土壌に乏しく、学校を卒業してしまうとスポーツに接する機会がめっきり少なくなる。生涯を通してスポーツをすることが非常に困難な状況、それがわが国のスポーツの現状である。また、少子化による部員数の減少や学校週5日制への対応など、学校の部活動のあり方も同時に検討していかなければならない。
では、こうした状況を改善し、誰もが、いつでも、どこでも、生涯を通してスポーツに親しむことができる環境を、我々は創り出すことができるのだろうか。
今後、多様化・高度化する国民のニーズに応える新たなスポーツクラブの展開を考えた場合、それは、一人の一生涯という長い期間に対応し、更に次の世代に受け継ぐことができるような「地域に根ざしたスポーツクラブ」の育成・定着を図ることである。もちろん、ハード的なことはもとより、資格を有した優秀な指導者がそのクラブの中に多数揃っていることは言うまでもない。
 いずれにせよ、平均寿命が伸び、世界一の長寿国となったわが国では、高齢期をどのように過ごすか、また、かつてない少子社会の中で、子どもたちをどのように育てていくのかといった問題は、今後のわが国が取り組むべき最も重要な課題である。
 そうした点も含め、これからの望ましいスポーツクラブの在り方について考えた場合、これまでのわが国のスポーツに対する考え方や取り組み方を180度転換し、思い切った施策を展開することが求められている。そして、そのきっかけとなるのが「総合型地域スポーツクラブ」である。

【1.総合型地域スポーツクラブの特徴】
 総合型地域スポーツクラブとは、主にヨーロッパ諸国などに見られる地域のスポーツクラブの形態で、地域において、子どもから高齢者、障害者までを含む、様々なスポーツを愛好する人々が参加できる、総合的なスポーツクラブのことであり、以下のような特徴を有している。
@ 単一のスポーツ種目だけでなく、複数の種目を行っている。
A 青少年から高齢者、初心者からトップアスリートまで様々な年齢、技術、技能の  保有者が活動している。
B 活動の拠点となるスポーツ施設、クラブハウスを有しており、定期的、計画的に  スポーツ活動の実施が可能となっている。
C 質の高いスポーツ指導者を配置し、個々のスポーツニーズに対応した適切な指導  が行われる。

【2.総合型地域スポーツクラブの意義】
 総合型地域スポーツクラブは、地域住民のスポーツ活動の拠点として、以下のような多様な役割を担っている。
@ライフステージに応じたスポーツ活動
総合型地域スポーツクラブは、多種目にわたってハイレベルな指導者の指導の下にスポーツ活動を展開するものであり、各人が性・年齢・体力に応じて種目を選択できるだけではなく、個人のライフステージに応じたスポーツの選択が可能である。
A地域コミュニティの形成
ヨーロッパ諸国などでは、総合型地域スポーツクラブはスポーツ活動の場というだけではなく地域住民の社交の場にもなっており、地域コミュニティの基盤となっている。
B子供達の社会教育の場
総合型地域スポーツクラブには、子どもから高齢者まであらゆる年齢層の人が参加するので、子どもから大人といった異年齢間の交流が行われることとなる。特に、子どもをこのような異年齢集団で育てることは、心の教育にも寄与するものである。
C公共施設の有効利用
小さなクラブが、互いにスポーツ施設を占有すれば公共スポーツ施設は際限なく必要となってくるが、総合型化すれば、施設使用の調整等が比較的容易となり、公共スポーツ施設などの効率的使用が可能となる。同じことが指導者の問題にもいえる。
D地域への誇り
総合型地域スポーツクラブに加入し、地域コミュニティに入ることにより、地域住民は地域への誇りを感じることとなる。これは、地域の活性化にも役立つものである。
E運動部活動との連携・協力による子どもたちのスポーツ環境の整備
総合型地域スポーツクラブから学校の運動部活動への指導者の提供など総合型地域スポーツクラブと運動部活動が連携・協力を行うことなどにより、子どもたちの多様なスポーツ環境を提供することが可能となる。

【3.総合型地域スポーツクラブへの追い風】
 これまで、このような光景は、遠い世界の話として受け止められてきたが、最近、わが国でも総合型クラブづくりにとって追い風となるいくつかの法案が成立し、社会体制も確実に整いつつある(表1参照)。

【4.総合型地域スポーツクラブへの取り組み】
 表2は、文部省が平成7年度から行っている「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」の実施市町村と(財)日本体育協会が平成9年度から行っているスポーツ少年団を核とした「総合型地域スポーツクラブ育成事業」の指定地区一覧である。

(表2を入れてください)

 岩手県金ヶ崎町、山形県鶴岡市、愛知県半田市、広島県熊野町、福岡県北九州市、宮崎県田野町の6地域が平成9年度で文部省の補助事業を終了し、自立したクラブとして新たなスタートを切った。
また、青森県、福島県、岐阜県、三重県、香川県など県独自の施策として総合型地域スポーツクラブの育成に取り組む自治体も増えている。
 Jリーグにおいては、百年構想のもと地域密着型のスポーツクラブの育成に取り組んでおり、既にいくつかのクラブでは、サッカー以外の競技、たとえばバスケットボールやバレーボールの教室を開催するなど、地域ぐるみのスポーツ振興(ホームタウン構想)に積極的な取り組みを行っている。
 このように、総合型地域スポーツクラブの育成に、意欲的な地域や団体がある一方で、「なぜ、わざわざ総合型地域スポーツクラブを作らなければならないのか」、「今のままで何がいけないのか」といった疑問の声も少なくない。総合型地域スポーツクラブの趣旨・目的は、まだまだ地域住民のレベルまでは浸透していないのが実情である。

【5.二の足を踏む理由】
 たとえ良いアイデアだとわかっていても、なかなか実行に移せないのはなぜだろうか。
「行政の仕組みが変わらないと」、「学校の部活動を変えないことには」、「指導者の意識が変わらないと」といった様に、「先ず、よそが変わらないとうちも変われない」といったわが国特有の横並び意識の中にその原因が潜んでいるように思われる。
これまでのスポーツ活動は、スポーツ少年団、学校運動部、地域のスポーツクラブ等がそれぞれ別個に活動してきた。しかし、これからは、一人の一生涯といった長い期間に対応し、更に次の世代に受け継ぐことができるような基盤を作り上げるため、それぞれの組織が少しずつ変化していくことが重要である。
どこか一ヶ所、針の穴ほどでも穴があけば、そこから水が流れ、やがて小石や大きな石も流れ出すといったように、いつの日か、「総合型地域スポーツクラブ」がわが国のスポーツの本流になっていくだろう。

【6.21世紀のスポーツシーンが変わる!〜総合型地域スポーツクラブ〜】
 ドイツでは、日本のような学校単位の部活動はなく、午後になるとほとんどの子どもたちは、地域にある様々なスポーツクラブで活動を楽しんでいる。それぞれのクラブにはクラブハウスが併設され、練習後にはシャワーを浴びたり、レストランでは食事や喫茶はもちろんのこと、パーティなども開くことができるようになっている。施設やクラブハウスの管理・運営は主に会員のボランティア活動によって支えられており、施設を低料金で利用できるほか、施設の優先利用などの特典も付いている。また、ドイツにはクラブ法といった法律があり、非営利的な活動、会員7名以上など、ある一定の条件を満たせば、法人としての資格が与えられ、税制上の優遇措置や公的な資金援助を受けることができるようになっている。
では、こうしたヨーロッパ型の「総合型地域スポーツクラブ」を導入・育成することによって、わが国のスポーツシーンはどのように変わるのであろうか。
あるスポーツ一家を例に、これまでとこれからのスポーツシーンを比較してみたい。
小学校6年生の長女はスポーツ少年団でミニバスケットボールを、中学校3年生の長男は学校の部活動でサッカーを、お父さんは職場のチームで野球を、お母さんは地域のクラブでバレーボールを、そしてお爺ちゃんは町内でゲートボールを楽しんでいるとしよう。
それぞれ現在の活動にはさほど不満を感じていないものの、将来的には、いくつか不安や悩みを抱えている。それは、進学先の中学校にはバスケットボール部がないこと、間もなく受験のためにサッカーを一時中断せざるを得ないこと、新しいメンバーが入らずにチームの存続が危ぶまれていること、競技志向と楽しさ志向という目的の違いによりグループ間で軋轢が生じ始めていること、メンバーの大半が10年前に始めた仲間でありチームの高齢化が進んでいることなどである。おそらく、単一種目、単一年齢、小規模独立型といったこれまでのスポーツクラブの特徴に起因することが大きいと思われる。
一方、総合型地域スポーツクラブの場合、所属する学校や職場などに関係なく、クラブを選択することができ、それぞれのライフステージの状況に合わせ、途中で種目を変更したり、中断したのち再開したりと、様々なシーンに対応できる。また、青少年から成人までクラブ内に世代間のつながりがあるため、上の年代の人がボランティアとしてコーチの役割を果たすことができると同時に、若い世代の育成にもつながっている。
また、スポーツ活動に限らず、親しい友人達が集まって誕生パーティを開いたり、祖父母の金婚式を家族で祝ったり、子供会の集まりやお母さんたちの勉強会を開いたりと、地域住民は、それぞれの生活のどこかで、常にクラブとの自然なかかわりを持つことができる。
このように総合型地域スポーツクラブとは、単に「今の自分にとってのスポーツ」といった視点・切り口だけではなく、子どもたちや高齢者といったあらゆる世代の視点に立ち、常に地域社会の問題と関連づけて考えていくことができる、極めて社会的な存在といえよう。

【7.総合型地域スポーツクラブと競技力の向上】
 生涯スポーツ社会の実現と共に、オリンピックや世界選手権等の国際競技大会に向けて、わが国の競技力の向上を目指すことも、総合型地域スポーツクラブの重要な目的の一つである。
世界レベルの選手を輩出するためには、小さい頃からいろいろなスポーツに触れる機会を持たせ、少しでも多くの人材の中から優秀な選手を発掘し、長期的な視野に立って育てる必要がある。特に、子どもの数が減少していることに相反して、オリンピック等の競技種目数は年々増加傾向にあり、各種競技団体にとっては、優秀な人材を確保することは益々困難になってくる。
こうした状況の中で、裾野を広げようとする「生涯スポーツ」と頂点を極めようとする「競技スポーツ」を総合型地域スポーツクラブといった基盤の上で、どのようにリンクさせることができるか、つまり、生涯スポーツと競技スポーツの垣根を取り外すことが双方にとってプラスとなり、相乗効果が得られることを認め合い、新たな施策の展開を図ることが求められている。
おりしも、スポーツ振興投票制度(通称サッカーくじ法)が成立し、スポーツ振興のための安定的な財源が確保され、活用される道が開かれた。その中では、誰もが参加できる地域スポーツクラブを全国に1万ヶ所、総合的に支援する「広域スポーツセンター」を300ヶ所設置し、地域のスポーツ環境の整備を図ることが提言されている。
あらゆる人々が共にスポーツを楽しむことができる総合型地域スポーツクラブを横糸に、広域スポーツセンターを縦糸に織っていくことによって、わが国の21世紀のスポーツシーンをデザインすることができるだろう。

【8.総合型地域スポーツクラブの育成・定着に向けて】
 では、こうした総合型地域スポーツクラブを全国各地に育成・定着させるためには、どういった取り組みが必要なのであろうか。実際の作り方を木にたとえて描いてみた。まず幹に当たる部分として次の3つのステップが考えられる。
@第一ステップ:共通理解
総合型地域スポーツクラブが目指すスポーツクラブとは、住民の手によって育てられ、メンバーである住民によって成り立っているコミュニティに強く根ざした組織である、といった共通理解を得ることから始めたい。また、学校期に、ある特定の種目を何年間も続け、勝つことを優先するといった従来の考え方から、人生のいろいろな時期に、好きなスポーツを、その時々の目的で楽しむことも認めようといった柔軟なとらえ方への転換、これこそが総合型地域スポーツクラブの第一の使命、役割である。
A第二ステップ:明確なビジョン
「どんなクラブにしたいのか」「何を目指そうとしているのか」といった明確なビジョンについて、地域住民と共に時間をかけて話し合うことが大切である。「自分たちの暮らしを、自分たちの住んでいる町を少しでも良くしよう」、そういった前向きな意欲を持った人が、その地域の中にどれだけいるか、それによって実現の可能性は大きく左右される。ただし、意識改革だけではなく、仕組みそのものを作ることがポイントである。
B第三ステップ:推進母体
第三にその仕組みの中核となる推進母体を立ち上げることが、大切な一歩となる。 なぜならば、未だに生涯スポーツの振興を、「幼児から高齢者までの幅広い年齢層を対象としたスポーツ教室やイベントを数多く実施し、その参加者数を増やせばそれでいい」と思い込んでいるところも少なくない。確かに、スポーツ教室や各種イベントの開催といったいくつかの花を切り取って花束(参加者数)を作った方が手っ取り早く、見栄えはいいものの、それが本当に地域住民の生涯スポーツの定着に結びついているかといえば、はなはだ疑問が残る。これからの地域スポーツの振興を考えた場合、将来的に地域住民が自主的、主体的に運営することができるような推進母体(クラブ)を立ち上げることに比重を移していくべきである。

さらに枝葉の部分として、10のキーワードを挙げてみた。
@共有財産としての学校
わが国のスポーツ施設の半数以上を占める学校体育施設を地域の共有財産として活用することができる。また、学校運動部や指導者を学校といった枠の中に囲い込むのではなく、学校−家庭−地域のトライアングルシステムの中に位置づけ、地域全体で生かしていくことが大切である。
Aボランティア指導者の発掘
地域に埋もれている様々な技能を持った指導者を掘り起こし、人的資源を活用することが大切である。また、クラブ内から適任者を発掘し,公認の資格を取得させるような配慮が大切である。
Bオーガナイザーの発掘
住民に対してはもちろんのこと、市町村体育協会や種目別競技団体、スポーツ少年団や学校運動部,実業団や既存の地域スポーツクラブ、さらには子供会や自治会、PTAや青少年健全育成会、老人会や婦人会等の様々な組織に対して、総合型地域スポーツクラブのビジョンをわかりやすく説明することができるオーガナイザーの存在は欠かせない。
C受益者負担の精神
個人の自由意志に基づき、それぞれの生活のリズムに合わせ、わずかな会費で、気長に続けられるようなクラブであることが望ましい。ドイツの例をみた場合、スポーツクラブの財源は、会費60%、補助金20%、寄付10%、イベントや講習会、バザーの開催等自助努力で10%ぐらいが適当であろう。1,000人規模の会員によって安定した経営をすることができる。
D一貫した指導体制
ジュニア期からトップレベルまで、一貫した継続的な指導を実現するための仕組みをいかにつくるかがポイントである。また、素質のある選手を発掘するためには、学校との緊密な連携が必要不可欠となってくる。
Eクラブハウスの所有
会員相互のコミュニケーションの拠点としてクラブハウスは必需品である。クラブハウスに行けば必ず誰かと会える、それが楽しみでクラブ通いが日課になることは十分考えられる。PFI促進法によるクラブハウス建設の可能性も開かれてきた。
F地域の行事への参加
スポーツクラブはスポーツのクラブであると同時に地域社会のクラブであり、フリーマーケット、クリスマスパーティ、ボランティア活動、地域の伝統行事への参加など地域社会と深くかかわるところに意義がある。そうすることによって。単なるスポーツクラブを越えた、コミュニティとしての社会的役割を果たすことができる。
G法人格の取得
法人格を取得することによって社会的な信用を得ると同時に地域社会に対する責任も生まれ、また地域と一体となることによって社会づくり、人づくりにつながる。NPO法の成立により、公共スポーツ施設の「クラブ委託」への道が開かれてきた。
H行政の支援
行政を巻き込むことが大切である。行政にはこうした住民主体のスポーツクラブを支援し、低料金システム、公共性を維持するバックアップ体制を担う責任がある。また、総合型地域スポーツクラブを地域の公共の福祉に貢献する団体として明確に位置づけ、スポーツ施設の優先利用、税制上の優遇措置、免税措置等を検討すべきである。
Iスポーツ文化の確立
各ライフステージにおけるスポーツとのかかわりは、決して「より高く、より速く、より強く」といったオリンピック精神に色どられたスポーツだけではない。また,スポーツとは決して身体能力に秀でた人の為だけのものでもない。スポーツクラブを市民生活に溶け込ませるためには、スポーツ文化を地域の中にどう育てていくかがとても重要である。

【9.スポーツが変わる、社会が変わる】
 総合型地域スポーツクラブは、少なくとも10年先、20年先を見据えた価値ある取り組みであり、わが国のスポーツシーンを根底から変え、新たな地域の財産として、次世代に受け継がれていくことだろう。
 21世紀のスポーツシーンを次のように描きたい。
 それは、子どもたちが笑顔で生き生きとスポーツに親しみ、人々も、個人単位や家族単位で、それぞれのクラブライフを満喫している、そんなごくごく当たり前の風景である。そのためにも、NPOとしての総合型地域スポーツクラブを社会的な仕組み・システムへと発展させ、やがて行政はノーコントロール・ウィズサポート、バックアップ体制として位置づけていく。つまり、スポーツNPOが「牽引役」となり、住民主導、行政支援型のシステムを社会全体に対して提案していくことが重要である。
 さあ、あなたの町でも、総合型地域スポーツクラブづくりに取り組んでみませんか。

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