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(財)福島県体育協会:『スポーツふくしま』 第4号 1999年3月

県民一人一人が創る「総合型地域スポーツクラブ」

【新しいスポーツの風】
 いま日本では、経済中心型社会から成熟した市民社会へと方向転換を図るため、これまでの「官主導型」のシステムを見直そうといった動きが活発になってきている。
 スポーツ界においても例外ではなく、学校、企業、そして競技団体に支えられてきたこれまでの体制を見直し、それぞれの地域の中で、一人ひとりがスポーツ文化をどう育て、どう根づかせていくかが問われてきているといえよう。

 今回は、この新聞に掲載された「将来的には、全市町村での複合型地域スポーツクラブの育成を目指す」といった新たな施策の展開が、福島県のスポーツに新しい風を吹き込むきっかけになるかどうかについて考えてみたい。

【スポーツシーンの転換】
 まず始めに、こうした新しい形のスポーツクラブを育成・定着させることによって、わが国のスポーツシーンはどのように変わるのであろうか。これまでとこれからのスポーツシーンについて描いてみたい。
 (1)これまでのスポーツクラブ〜単一種目、単一年齢、小規模独立型のクラブ〜
 小学校6年生の長女はスポーツ少年団でミニバスケットボールを、中学校3年生の長男は学校の部活動でサッカーを、お父さんは職場のチームで野球を、お母さんは地域のクラブでバレーボールを、そしてお爺ちゃんは町内でゲートボールを楽しんでいるとしよう。
 それぞれ現在の活動にはさほど不満を感じていないものの、将来的には、いくつか不安や悩みを抱えている。それは、進学先の中学校にはバスケットボール部がないこと、間もなく受験のためにサッカーを一時中断せざるを得ないこと、新しいメンバーが入らずにチームの存続が危ぶまれていること、競技志向と楽しさ志向という目的の違いによりグループ間で軋轢が生じ始めていること、メンバーの大半が10年前に始めた仲間でありチームの高齢化が進んでいることなどである。おそらく、単一種目、単一年齢、小規模独立型といったこれまでのスポーツクラブの特徴に起因することが大きいと思われる。
 (2)これからのスポーツクラブ〜複合型地域スポーツクラブ〜
 @多世代型クラブ
 競技スポーツ中心に行ってきた人が、現役を退いた途端にスポーツから遠ざかってしまったり、就職や進学、または結婚や転居によって、スポーツを中断してしまったりするケースも珍しくない。
 一方、複合型のスポーツクラブの場合、それぞれのライフステージの状況に合わせ、途中で種目を変更したり、中断したのち再開したりと、様々なシーンに対応することができる。また、子どもから高齢者までクラブ内に世代間のつながりがあるため、上の年代の人がボランティアとしてコーチの役割を果たすことができると同時に、若い世代の育成にもつながっていく。
 A多種目型クラブ
 子どもの頃は、いろいろな種目を経験することが大切であり、あまり早い時期に特定の種目に決めてしまうことは、たくさんの可能性を持つ子どもたちの芽を摘むことになりかねない。学校期に、ある種目を何年間も続け、勝つことを優先するといった考え方だけではなく、人生のいろいろな時期に、好きなスポーツを、その時々の目的で楽しむことも認めようといった柔軟なとらえ方も大切にしたい。
 B文化複合型クラブ
 複合型スポーツクラブとは、スポーツのクラブであると同時に様々な文化活動および社会活動も含まれ、フリーマーケット、クリスマスパーティ、ボランティア活動、地域の伝統行事への参加など地域社会と深くかかわるところに意義がある。
 また、お母さんが小さな子どもを連れてクラブまで散歩することも、ただクラブの練習風景を見に行くことも、またお年寄りにとってクラブに行けば必ず誰かと会える、それが楽しみでクラブ通いが日課になることなども、スポーツクラブの活動として考えたい。
 C受益者負担型クラブ
 スポーツとは、お金をかけないで行うといったイメージが根強く、会費を支払ってまで行うことに抵抗を感じる人も少なくない。しかし、会員のニーズを的確にとらえ、質の高いサービスを提供するためにも、財政的な自立は必要不可欠である。ドイツの例をみた場合、スポーツクラブの財源は、会費60%、補助金20%、寄付10%、イベントや講習会、バザーの開催等自助努力で10%ぐらいが適当であろう。1,000人規模の会員によって安定した経営をすることができる。
 D自主運営型クラブ
 これまでの学校中心、行政主導、単発的な一日行事型のシステムの場合、参加希望の有無にかかわらず、時には動員によって無理やり参加しなければならないことも少なくない。複合型地域スポーツクラブが目指すスポーツクラブとは、住民の手によって育てられ、メンバーである住民の自主的、主体的な運営によって成り立っている、コミュニティに強く根ざした組織である。

【スポーツを変える、社会が変わる】
 (1)少子高齢化社会
 わが国では、少子高齢化が加速度的に進行し、かつてない「逆ピラミッド型」の社会を形成しつつある。こうした人口構成は、肥大化する高齢者層を少ない人数で支えていかねばならないといった不安定な構造を招き、わが国の社会・経済基盤そのものをゆるがす大きな要因となってくる。例えば、第二の人生を病院のベットの上ではなく、スポーツクラブで過ごすことができるような健康で豊かな社会づくりを目指さなければならない。また、運動不足による生活習慣病が中高齢層のみならず子どもにまで拡がっている現状を考えた場合、健康増進や世代間の交流を促す場として、複合型スポーツクラブは最適である。
 (2)経済再生
 家族で年間1万円の会費を支払い、一つの場所で、いくつかの種目を気軽に楽しむことができるクラブが整えば、一中学校区で1,000人の会員を集めることは夢ではない。実際に、愛知県半田市にある「成岩スポーツクラブ」や富山県の「ふくのスポーツクラブ」では実現している。もし、こうした経済主体としてのクラブが各中学校区にできれば、わが国の景気対策にもつながってくる。
 (3)行政のスリム化
 国−都道府県−市町村へとトップダウンで政策が伝えられた場合、住民レベルに届くまで時間差があり、時として話の内容が変わってしまっていることも少なくない。いわゆるサービス行政とは、住民の声を反映させた施策の展開であり、複合型のクラブには、行政と住民を媒介する重要な役割を果たすことが期待されている。
(4)学校週5日制
 学校週5日制の完全実施に向け、土日の活動を自粛し、平日の活動時間も縮小しようといった「部活動見直論」が活発になっている。学校−家庭−地域のトライアングルシステムに基づいた社会的基盤として、また心の教育に寄与する第四の領域として、複合型スポーツクラブへの期待は今後、益々高まってくるだろう。
 (5)公共施設の有効利用
 小さなクラブが、互いにスポーツ施設を占有すれば公共スポーツ施設は際限なく必要となってくるが、複合型化すれば、施設使用の調整等が比較的容易となり、公共スポーツ施設などの効率的使用が可能となる。
 (6)一貫指導体制の確立
 わが国の競技スポーツ選手は、ジュニア期は学校の運動部を中心にその他民間のスポーツクラブなどで活躍し、その後、大学や企業などで活動しているのが一般的である。しかし、学校運動部の場合、小・中・高と学校単位で輪切りにされていることによって、将来のエースを「育てる」のではなく、現在のエースに「しあげる」ことが要求され、ともすれば、目先の勝敗にこだわってしまう傾向が指摘されていることや日本のトップスポーツを支えてきた実業団の中には、厳しい経営状況から、相次いで休部または廃部に追い込まれるクラブも増えている。ジュニア期からトップレベルまで、一貫した継続的な指導を実現するための仕組みづくりが求められている。

【総合型地域スポーツクラブへの追い風】
 このような光景は、これまで遠い世界の話として受け止められてきたが、最近、わが国でも住民主体のクラブづくりにとって追い風となるいくつかの法案が成立し、社会体制も確実に整いつつある。
 総合型クラブづくりとは、決して向かい風に向かって突き進むといった政策ではなく、むしろ、追い風を受けていると言えるだろう。

【スポーツNPOを目指せ!】
 こうした時代の流れと追い風を活かすためにも、NPO(民間非営利組織)としての「複合型地域スポーツクラブ」の目指してほしい。
 筆者は、昨年5月、三重大学の水上博司氏と共に、各地の総合型地域スポーツクラブづくりを支援する全国的な集まりとして、「CLUB netz(クラブネッツ)」を設立。現在、経済企画庁にNPOの申請を行っているところである。順調にいけば、本年5月には、特定非営利活動法人として新たな活動を展開したいと考えている。
 昨年11月、ドイツケルン体育大学のリットナー教授とクライス・ノイス市のアクセル・ベッカー氏を招き、愛知県半田市スポーツ健康推進協議会との共催で「子どもDoスポーツ国際フォーラム」の開催等を行った。
 いずれにせよ、既存の制度や仕組みにとらわれない先駆的な活動ができるNPOは、これからの市民社会を開くカギを握ってくると思われる。
 私は、21世紀のスポーツシーンを次のように描きたい。
 それは、NPOとしての総合型地域スポーツクラブを社会的な仕組み・システムへと発展させ、やがて行政はノーコントロール・ウィズサポート、バックアップ体制として位置づけていく。つまり、スポーツNPOが「牽引役」となり、個人の自発性に基づいた社会づくりのため、住民主導、行政支援型のシステムを社会全体に対して提案していくことが重要である。

【おわりに】
 これまで総合型地域スポーツクラブについて述べてきたが、全国的にみても、県のレベルで本格的に取り組んでいるところはまだない。前例がないからこそ、最初に取り組む価値は大きく、自由な発想が展開できる。
 雉子波、増子といった世界レベルの選手を輩出している福島大学陸上部、全日本高校駅伝大会で優勝した田村高校陸上部、そして全国都道府県対抗駅伝大会で第2位という快挙をとげた福島県男子チームなど、最近の競技スポーツにおける福島県の活躍には目をみはるものがある。
 冒頭に紹介した県スポーツ振興審議会の提言がもし実現されれば、「複合型地域スポーツクラブを核とした地域づくり」の先駆けとして名実ともに「スポーツ先進県ふくしま」を築くことができるだろう。

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