by Y. Tsutsumi
ナガエコミカンソウ(ブラジルコミカンソウ) Phyllanthus tenellus Roxb. はマスカレーヌ諸島が原産といわれる熱帯・亜熱帯生のトウダイグサ科の一年生の雑草です。日本国内でも温室などでは以前からよくみられたようですが,野外で定着はしていなかったようです。しかし,1987年に神奈川県鎌倉市と大和市で初めて野外で発見されました。その後関東以西各地で続々と定着が確認され,その急増ぶりが伺われます。ハイニシキソウ Chamaesyce prostrata (Aiton) Smallという熱帯・亜熱帯の雑草も神奈川県と千葉県で最近発見されました。どうして熱帯・亜熱帯のナガエコミカンソウが日本に定着したのか? なぜこれまで帰化していなかったのに,最近になって急増しているのか? 気候の変化が起こっているからか? 日本の環境に適した性質をもつものが現れたからか? 今のところ真相はわかりません。とにもかくにも,ナガエコミカンソウの事例は「熱帯・亜熱帯の植物だから帰化しない」「これまで帰化しなかったからこれからも帰化しない」は必ずしも正しくはないことと,これまで帰化していなかった撹乱依存種の植物が今後も帰化しないことを断定するのはその植物の専門家でもむずかしいことを教えてくれます。
ところで,環境教育の名の下でケナフを栽培している学校が沢山あります。むしろ,教育活動に熱心な学校で,優秀で活発な先生方のチームワークにより,大きな労力をかけて行われている例が多いように見受けられます。個人的にはとても残念な気がします。
ケナフは大型一年生草本なので二酸化炭素吸収・固定速度は速いですが,固定した二酸化炭素は樹木のように有機物として蓄積せず,枯れれば分解され,環境に放出されます。ケナフが二酸化炭素削減に貢献したとしたらそれは紙として残った分だけです。その紙もずっと紙として保存しておくことが条件です。ケナフから紙を作るために使ったガスやケナフのニュースをのせた学級通信に使った紙の量などと較べてどうでしょうか?
今のところ日本に帰化していないようですが,上のナガエコミカンソウの例を挙げるまでもなく,今後も帰化しないと断定するのは難しいと思います。組織的に大規模にケナフを植えたり,種子を無差別配布することは,帰化の可能性を増やします。そしてなにより,大型一年生草本は自然植生に侵入して大きな影響を与える可能性があります。大型一年生草本の帰化植物で生態系に大きな悪影響をおよぼしている植物の例としては北米原産のオオブタクサが有名です。万一帰化してしまった場合,道端などで大人しくしている小型一年草である可憐な(?)ナガエコミカンソウやハイニシキイソウなどとは較べものにならないインパクトを植生に与える可能性があります。
しかし,ケナフは「一年草なので生態系への心配はない」「作物だから帰化しない」とホームページ上で堂々と書いている学校が多いのをみると理科教育の関係者として悲しい限りです。帰化植物の多くは一年生植物です。悪名高いオオブタクサもアレチウリも一年生の帰化植物です。作物から帰化した植物は多く,逸出帰化植物あるいは人為帰化植物と呼ばれています。これまた悪名高いセイタカアワダチソウもオオマツヨイグサもかつては観賞用に導入された作物でした。このような,少し調べればおかしいとわかることを誰が言い出して,どのように広まったのかはわかりませんが,将来教員になる人に「ものの見方(正しい情報の選択)・考え方(正しい推論)」を身につけさせるのがいかに大切かを痛感します。
ということで環境教育の一環としてケナフを栽培している,あるいはしようとしている教育関係者に次のことを提案します。
1. 二酸化炭素削減への貢献が目的の場合は,木を植えましょう。ケナフ栽培に紙作りを組み合わせたときの二酸化炭素削減は使用するガスの量などに気を使ったり,作った紙を永久に保存するなどの条件を与えてもほとんどないかあってもごくわずかと考えられます。それに対し,木が生えていない場所に木を植えると,幹に有機物として蓄えられた分だけ二酸化炭素削減へ貢献します。樹種や産地に注意を払ってその地域の雑木林をうまく復元できればビオトープにもなります。
2. 木材資源を大切することが目的の場合は,無駄紙を減らしたり,紙のリサイクルに取り組みましょう。ケナフで紙を作ってもそれを普段使っている紙の代用にしない限り,パルプの削減につながりません。
3. 学校で紙すきをすることが目的の場合は,コウゾの仲間やミツマタを使いましょう。ケナフはパルプの代用としての価値はありますが,和紙の原料としての価値はほとんどないようです。地域に自生していたり古くから栽培している植物を用いれば,地域の自然や文化の勉強にもなります。
4. ケナフを植えることが目的の場合は,花壇で小規模に植えましょう。組織的に大規模に植えたり,無差別に種子を配布することは,帰化の可能性を増やす行為です。
5. 総合的な学習の時間への対応が目的の場合は,所属する学校で立地や地域性などを活かしてどんな特色のあることができるかを考えることから始めましょう。既存のプログラムを安易に利用することは,総合的な学習の時間の本来の趣旨から大きく外れています。まず,地元の博物館,自然観察センター,大学などの教育研究機関と連携して地域の歴史,文化,自然を何年かかけて調べることから始め,その後どのようなことができるかを検討し,活動を展開していくことがお勧めです。
6. 「二酸化炭素削減」と教えてケナフを植えて紙を作ってしまったら,吸収速度がはやいことと蓄積することの違いなどを教えた上で,自分たちの作った紙の総乾燥重量と校庭にある木の枝の乾燥重量を比較するなどして,どのくらい二酸化炭素削減に貢献をしたかを児童生徒たちと検討してみましょう。自分の行ったことを客観的に検討することは,ものの見方・考え方を養うまたとない機会です。環境教育や自然保護は,次の年から目的に応じてよりよい手段で行いましょう。
ケナフは話題性もあり,環境を考える最初の入り口としての価値はあるかもしれません。ケナフを栽培して紙作りをした後,ケナフのもつ環境問題に目をつぶってケナフ運動に邁進する学校が多い中で,そのおかしさに気づいてより環境に配慮した次のステップへ進んでいった学校も出始めています(富山県朝日町立南保小学校など)。このような学校が一校でも多く増えていくことを期待しています。
ケナフの生態学的な問題点については次のページに詳しく書かれています。
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次のページにある「シッポナ君の部屋」では学校現場でのケナフの環境教育に関する問題点が父兄の視点からわかりやすく示されています。
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