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初等社会科教育法における模擬授業づくりについて(98.10.29版)

              

                          社会科教育  西内 裕一

 

 大学における教科教育法の授業では、教師としての実践的指導力の基礎を育成することが、その主たる課題の一つである。そのためには、さまざまな方法があるが、その一つとして、授業のなかで「模擬授業づくり」をおこなうことがきわめて有効である。
 筆者は、福島大学に着任して以来、社会科教材研究、そして教育職員免許法の改正にともなう課程申請による授業名の変更によって、初等社会科教育法と名の変わった授業において、毎年、「模擬授業づくり」を試みてきた。
 本稿は、その10年間の総括である。それは、具体的には1998年度前期の授業の内容の検討をおこない、その成果を確認し、現在の残された課題や新たな課題を析出しようとするものである。

キーワード  模擬授業  教科教育法  社会科教育学  班作業  班づくり

  はじめに

 小学校教員養成課程において、教科教育法の重要性は言をまたないが、そのなかで実践的指導力を養う効果的な方法の一つとして、模擬授業づくりがある。
 模擬授業については、多くの大学でおこなわれているが、ある意味では当然かもしれないが、その多くは指導要領や教科書に準拠した内容でおこなわれている。
 しかしながら、初めておこなうであろう模擬授業づくりにおいて、この枠組みは、学生たちの発想や思考のすじみちを限定してしまい、豊かな成果を上げることは困難である。
 そこで、比較的自由な発想で単元構成ができ、そのうちの一時間分をつくるというようなかたちで作業ができるよう10のテーマを設定し、グループをつくってそこでのディスカッションやフィールドワークをもとに、模擬授業づくりを構想し、実践してみた。
 まだまだ不十分なところが多いが、10年間実施したということでもあり、中間的な報告と総括をおこないたい。

 T 初等社会科教育法における模擬授業づくりの位置づけ

 福島大学教育学部においては、初等教科教育法科目はすべて3年次に履修することになっている。また中等教科教育法も3年次科目として設定されているため、幼稚園課程の学生が「保育内容の研究」を2年次から履修することを除いては、すべての学生が、3年次に初めて教科教育法的な科目を履修することになるのである。
 そこで、初等社会科教育法B・C・Dにおいては、以下のようなカリキュラムを構成している。

 イントロダクション
 「実践記録をよむ」
 模擬授業づくりについて(レポート作成)
 授業のビデオの視聴
 実地指導講師による特別講義
 模擬授業づくり(班作業)
 模擬授業の実施

 イントロダクション(第1回目)では、まず、この授業の流れを説明する。
 そのあと、3つの指示「テキスト(『新しい小学校社会科へのいざない』地歴社1992)を必ず持参すること」「ミニ・レポート、作業記録用紙を提出すること」「授業通信を保存しておくこと」をし、参考文献、雑誌を紹介する。
 そして、前半部である「実践記録をよむ」でおこなうミニ・レポートの作成方法を実習する。 
 テーマは、「これまで受けてきた社会科の授業において、最も印象に残っていること」「こんな社会科の授業をしたいということ」「ズバリ、「社会科」とはなにか」という3つで、約10分で記入してもらう。記入したものは、提出してもらって終わり。まだ読み上げたり、コメントをつけたりはしない。
 第2回目からは「実践記録をよむ」で、小学校各学年の実践記録を一回に一つずつ読んでいく。
 第2回目は、島根県の八束小学校の教師である竹谷延子の実践記録を検討する。ここでの課題は、教師が事前に設定していた教育目標、いわゆる「ねらい」が、実際の授業において達成されているのかどうかを検討することにある。
 ここでも、最後の10分間は、上記のテーマに関するミニ・レポートの作成をおこなう。こんかいは、数人を指名して、書いたレポートをみんなの前で読み上げてもらい、西内はごく簡単なコメントをつける。コメントをつける際には、80%は、ほめる。そして、あとの20%で、「ここ、こうしたら」という注文をつけるようにしている。そのさい、大切なことは、決して否定的な評価をしないことである。まずい部分にはあまり触れず、いいところについて、「もっと書いたらいいよ」とプラスの評価をいっぱいしてやって、意欲を喚起することである。
 第3回目は、川崎かよ子と山梨喜正という2人の実践家の、水道の「蛇口」を切り口としている、同じような課題を持った2つの実践を比較して読み、その違いがどこから生じてきているのかを分析させることをねらいとしている。
 最後のミニ・レポートの発表では、関連した意見とか、対立する意見とか、少し出してもらうように心がける。ただ、あまりうまくいかないが。
 第4回目は、福崎誠次という1人の実践家が、5年生の工業学習の授業をつくるにあたって、自分の以前の実践や先行実践からなにをどう学んで自分の実践をつくっているのかを分析し、考察することをねらいとしている。
 ミニ・レポートの課題は、「テキスト以外に配布した、佐々木勝男実践から、福崎実践はなにを学んでいると考えられるかを推察すること」であったが、これはちょっと資料不足で、うまくおこなかなかった。次回は、佐々木実践の抜粋ではなく、記録の全文を配布したいと考えている。
 第5回目は、6年生の社会科の課題を、中学校とは違うかたちの「小学校らしい歴史学習」、男女平等をテーマとする憲法学習、「アフリカ認識を深める」国際理解学習のそれぞれについてその長所と問題点を考えていくことをねらいとしている。
 ミニ・レポートは、実践に対する感想と、次回以降の班作業でやりたいテーマを「第1希望」から「第3希望」まで記入することである。
 第6回目は、山本典人の授業「ヨーロッパ人がやってきた」のビデオをストップモーション方式で分析することをねらいとしている。
 山本の「指導案」は、事前に配っておく。授業後のミニ・レポートでは、その感想を自由に書かせている。
 また、「実践記録をよむ」が終わるところに合わせて提出できるよう「模擬授業づくりについて」というレポートを作成させる。作成期間は4週間、参考文献として、テキストの第2章「授業をつくる」を示しておく。
 このレポート作成の作業は、山口大学での吉川幸男・外山英昭による模擬授業づくりを間接体験するようなものであるため、自分たちがこれからおこなう「模擬授業づくり」のイメージを得るのに大いに役立っているようである。
 第7回目は、元小学校教師の半沢光夫氏による特別講義−「教員養成実地指導講師」として、福島県歴史教育者協議会の半沢光夫氏に、1コマの特別講義をお願いしている。これは、氏の豊かなフィールドワークに支えられたもので、使用されるスライド・OHP の量に圧倒されるが、地域を教材化するということがどういうことであるのか、また、どのようにすればいいのかということが、実感できるいい機会となっている。
 第8回目からは、班作業に入る。
 班作業については、次章で詳細に論じたい。

 U 模擬授業づくりの構造と展開

 模擬授業づくりは、おおむね次のような手順でおこなっている。

 グループ編成
 班長、記録係の選出
 グループでの作業
 全体報告会
 模擬授業実施班の選出
 模擬授業の実施
 事後検討会

 まず、グループ編成であるが、第7回目のミニ・レポートに、グループ作業で希望するテーマ名を記入する欄をつけてある。それにもとづいて、西内のほうでグループ編成をする。
 選択させるテーマは、次の10テーマである。

@ 原子力発電
A 国際社会と私たち(「南北問題」など、中国や東欧、国連などのことでもよい)
B 北国のくらし(過疎・過密の問題なども)
C 日本の農業・林業・水産業
D 私たちの地域○○(具体的に特定すること)・公共施設・安全
E 日本の歴史(人物史、問題史などでもよい、特定のテーマで)
F 私たちのくらしと経済(工業などの産業学習、食品添加物等の消費者問題など、また、消費税の問題でもよい)
G 核兵器・核戦争と軍縮・平和(ヒロシマ、湾岸戦争、安保・基地問題なども)
H 環境問題(フロンガス、熱帯雨林の破壊、砂漠化、リゾート開発、水質汚染・大気汚染・土壌汚染・騒音公害など)
I 人権問題・子どもの権利条約

 95%以上の学生が、第1希望のテーマのグループへ収まるように工夫する。そのために、Ha班、Hb班などというグループもできてくる。
 また、第7回の授業に、教育実習等で欠席したものは、人数に余裕のある班に個別に交渉して入ってもらっている。
 第8回の授業からは、福島大学教育学部附属総合教育実践センターの特別教室を使用する。この教室は、正六角形をしており、センターコンソールを囲んで、6人がけのテーブルが15ならんでいるという、班作業にうってつけの教室である。
 まず、班分けの資料を配布し、班ごとにテーブルについてもらう。班作業記録用紙を配布し、班ごとに班長と記録係を選出する。そして、第一回目の班作業に入る。
 作業目標は、「自分たちが選んだテーマに関して、小学生と一緒に学びたいと思う、より具体的なテーマ・内容をさぐる。そのために、まずはこれというものをとにかくいっぱい出してみる。そこから、自分たちの班でやってみたいと思うもの、2〜3に絞ること」である。
 授業の最後の20分は、全体報告会をおこなう。
 班ごとに作業経過を報告し、他の班から質問・感想・意見を出してもらう。なかなか出てこないが、それでも1つの班に対して、最低1つは、出させるようにする。
 そのあと、西内のほうから、若干の補足質問をする。全部の班の報告が終わったところで、次回の課題を確認して終わる。
 第9回の授業では、引き続き班作業をおこなう。
 今回の作業目標は、「2〜3に絞られたテーマについて検討し、1つのテーマに絞ること。絞れた班は、教科内容の検討にはいること」である。
 記録者は、交替する。
 今回は、グループによっては、資料調べに図書館や実践センターの資料室にいくことも認める。
 授業の最後の30分は、全体報告会をおこなう。
 しかし、ひとつの班が約束の時間に10分遅れて帰ってきたので、「10分遅れた班がありますので、授業を10分延長します。遅れた班の人は、教師になったときに、子どもたちが遅刻しても叱ることはできませんよ」と、たしなめる。
 前回同様、班ごとに作業経過を報告し、他の班から質問・感想・意見を出してもらう。
 今回は、1つの班に対して、2つ以上出させる。
 それをうけて、西内は、若干の補足質問と意見をいう。
 最後に、中間レポートを提出してもらう。
 第10回の授業では、引き続き班作業をおこなう。
 今回の作業目標は、「引き続き教科内容の検討と、教材研究、発問・指示・説明という指導言の検討にはいること」である。
 前回同様、班ごとに作業経過を報告し、他の班から質問・感想・意見を出してもらう。
 今回は、1つの班に対して、3つ以上出させる。
 それをうけて、西内は、若干の意見をいう。
 第11回の授業における班作業の課題は、「展開案をできるだけ具体的なものにすること」である。
 前回同様、班ごとに作業経過を報告し、他の班から質問・感想・意見を出してもらう。
 今回は、1つの班に対して、4つ以上出させる。
 それをうけて、西内は、若干の意見をいう。
 第12回の授業では、若干の班作業のあと、約1時間かけて、次回と次次回に模擬授業を実施する班の選定作業をおこなう。
 選定にあたっては、次のような方式を取っている。
 まず、各班からの模擬授業案のタイトルと内容の報告を一班につき、約3分程度でおこなってもらう。
 これまでに出たもののタイトルの一部を紹介する。

「嫁にこないか」(農業後継者の問題)
「消えた横断歩道」(スパイクタイヤと粉塵公害)
「すしネタはどこから?」
「ゾーラ・バッドでアパルトヘイトを教える」
「交通信号機の形から、雪国の暮らしにせまる」
「福島のこんにゃくを追う」
「カップ麺の味付けの違いから北国のくらしを」
「あなたは、赤いタラコ、紅ショウガを買うか」
「地球のきものにあながあく」
「おいしい水は、おいしいか?」
「自動車のスリップ事故と阿武隈川の汚れ」
「福島で海水浴ができる」(地球温暖化の問題)
「原子力発電所の光と影」
「福島駅に原爆が落ちたら」
「割り箸と塗り箸、どっちを使う?」
「川中島の合戦と長篠の合戦」(戦国時代の闘いを変え、時代を変えた鉄砲)
「牛乳のできるまで」(牧場の見学から)
「エビと日本人」
「おいしさの秘密はなに?」(食品添加物)

  そのあと、全員の2回の挙手で、「模擬授業をやってもらいたい班」を選ぶ。得票数の多い班、上位2班が模擬授業をおこなうことになる。
 すぐに班会議をし、どちらの日にどちらの班がやるのかを決めてもらって、次回やることになった班から、次回に持ってきてほしいものを告知してもらって、終わる。
 第13回・第14回の授業では、模擬授業をおこなう。
 45分間の模擬授業のあと、引き続いて、「事後検討会」をおこなう。
 第14回の最後には、「最終レポート」の確認をして、「授業じまい」をする。
 それは、以下のとおり。

 班で取り組んできた授業テーマに関して、1-2時間分の授業案をつくり、詳細な展開案を添付して提出すること。
 期限は、○月○日、午後5時
 提出先は、西内研究室

 V テーマ、タイトルと内容の概要

 さて、ここでは1998年度前期の各班のテーマとそれがどのような内容になっていったかについて概観する。(B)(C)

@ 班……「サッカー場はどうしてできたのだろうか」というタイトルで、原子力発電―原発の安全性、危険性と必要性、不要性とをまず班内でディスカッション。そのあと、東北電力に出向いていき、資料をもらってくるが、安全性と必要性のものばかりであることに気づく。そして、危険性と不要性について書いた資料を探す。(B)「私たちと原子力発電」というタイトルで、原発の必要性と危険性を(C)
A 班……「おとなりの国韓国」というタイトルで、ワールドカップ開催の問題、、在日「朝鮮」「韓国」人の問題から入る、国際理解教育を目指す。(B)
B 班……「北国の食文化」というタイトルで、しみ豆腐を教材に使うために生産工場を見学してくる。(C)「雪から家をまもれ」というタイトルで、家の造りから、雪の重さを実感させる。模型づくり(B)
C 班……「今の米づくりと昔の米づくり」というタイトルで、機械化された今の米づくりと機械化以前の米づくりのちがいを考えさせる。(C)
D 班……「ビール工場を見学して」というタイトルで、工場見学のあとの一時間で、見学してわかったこと、疑問に思ったことなどを出させるところから、立地条件に気づかせていく。(B)
E 班……「どうやって大仏をつくったのか」というタイトルで大仏建立を。(B)「鉄砲で戦が変わった」というタイトルで長篠の合戦を(B)。「船長は無罪か有罪か」というタイトルで、ノルマントン号事件を教えたい。(C)
F 班……「お金のゆくえ・後編」というタイトルで、お金の流れ、一生を。(B)「ミルクはミラクル」というタイトルで、牧場の見学と工場でつくられる牛乳との比較を。(B)「デパートのふしぎ―デパート改造計画」(C)「なんちゃってジュース飲んじゃって」というタイトルで、食品添加物を教えたい。(C)
G 班……「沖縄にアメリカの基地があるのを知っていますか」というタイトルで、沖縄の歴史と基地問題を。(B)「自衛隊のしごと」というタイトルで、自衛隊の問題について教えたい。(C)
H 班……「ゴミは燃えるとどうなるの」「食べれば食べるほど増えていく(環境ホルモン)」「恐怖!ダイオキシン」「ゴミがゴミじゃなくなるとき(ペットボトルのリサイクル)」、以上(B)のタイトル。「埋立処分場をつくろう」「おいしい水ってどんな水?」「何でも燃やしていいのかな」「牛乳パック大変身」「紙のおトクな話」、以上(C)のタイトルである。
I 班……「おしつけられた制服」というタイトルで、制服問題(京都府立桂高校の事例を使って)を教えたい。(B)「ボクの気持ち、キミの気持ち」というタイトルで、「いじめ」をどう考えているのか、児童の意識調査をもとに授業をつくる。(C)

 このように、内容はバラエティに富んだものになるが、自分たちが子どもたちと一緒に学びたいというテーマであるので、多くの班では意欲的に活動していたようである。

 W 模擬授業の実際

 では、実際の模擬授業はどのようになっているのか。
 ここでは、1998年度前期のものについてみてみたい。
 前期は、初等社会科教育法のBとCである。
 模擬授業のタイトルは、「お金のゆくえ」「ミルクはミラクル」以上B、「牛乳パック大変身?」「なんちゃってジュース飲んじゃって」以上Cである。
 まず、「お金のゆくえ」は、7月6日2校時目である。
 はじめの挨拶のあと、前時の学習内容の確認をし、本時のめあて「家からのお金の流れを知ろう」を提示し、「コンビニでお菓子を買ったとき」の場合を考えさせる。班で話し合い、画用紙にその流れを書いたものを作成し、黒板に順次貼っていく。
 ここでは、班作業をさせたあとに発表をさせるところを教師がはしょったため、ねらいの達成が不十分なままに終わってしまった。
 事後検討会でも、その点が指摘された。教師役は、緊張してしまって、その部分を忘れてしまったとのことであった。10分くらい早く終わってしまったので、時間的には可能であっただけに、残念であった。
 次に、「牛乳パック大変身?」は、7月6日3校時目である。
 これは実際に、牛乳パックから、はがきをつくるのを実演し、そこに子ども役の学生を巻き込んでいくというスタイルの模擬授業だった。
 やはり、教材がよく、教材研究もしっかりとなされていたので、途中での子ども役の学生からの質問に答えられなかった点を除けば、ほぼ満足できる内容の模擬授業となっていた。
 事後検討会でも、評価する声が多くあがっていた。注文としては、時間内にしあがったはがきを見せて欲しかったという点、もっと子ども役に作業をさせて欲しかったという点が、提起された。
 そして「ミルクはミラクル」は、7月13日2校時目である。
 見学に行く前の時間の設定ということで、搾乳から製品になって出荷されるまでを班ごとに予想させ、用意したパネルを並ばせてみる。そのあと教師が正解の作業用プリントを配布し、正しい順番に並べ替えさせる。そのなかで出てきた疑問を次の時間の見学で確かめてくるというかたちで授業を終えた。
 さいごは、「なんちゃってジュース飲んじゃって」で、7月13日3校時目である。
 オレンジを絞ってつくるジュースと添加物だけでつくった「なんちゃってジュース」とを飲み比べてみる。
 実際に全部の班に作業をさせ、飲み比べをさせた。授業者の指示も的確であり、混乱することなく、飲み比べができていた。
 そして、添加物の社会的な意味を考えていくという次時につなげていた。
 このように、どの模擬授業も一定の水準に達していて、意義のある考察、事後検討会ができた。

 おわりに――若干の考察と今後の課題

 教員養成学部において、教師になったときの実践的指導力の基礎を養う必要があることは、言をまたない。その具体的方法の一つが模擬授業のプランづくりであり、模擬授業の実施である。
 筆者が始めた10年前に比べて、近年は教科教育法等のなかで模擬授業をおこなうケースが増えてきている。
 しかしながらそれらの多くは、指導要領の内容や教科書の内容を前提とし、本当の意味での模擬授業づくりとはなっていないのである。
 本当の意味での模擬授業づくりとは、「教師が子どもたちといっしょに学習してみたいと考えている教科内容」をあきらかにするところから始めなければならない。
 そして、その教科内容をになう教材の研究・教材づくりをおこない、子ども・子どもたちの「学び」を想定して、その指導過程をあきらかにし、学習形態を選択し、学習組織をつくり、具体的な発問・指示・説明等の指導言を考え、声の調子や大きさや間の取り方、しぐさなどのパフォーマンスを具体的に考えていくことが必要なのである。
 大学生の多くは、発声すらも満足にできない状況にある。したがって、授業は、この発声練習からはいっていっているのである。
 また、人の話を聞くちからも育っていないことが多い。
 ここから始める、すなわち「授業規律」づくりから授業がおこなわれることになる。
 もちろん、この規律は、学習内容を習得するために必要なものとして導入されているのであって、規律維持のための規律ではないということに、注意してもらいたい。
 このように、大学における教科教育法は、教師になるにあたってのさまざまな問題に関して、具体的に学生たちを鍛練する場となっていく必要があるのである。
 教科教育法、とくに「模擬授業づくり」は、いわば、教師になるための「総合技術教育」(politechnism)であり、また、意識的・自覚的にそのような授業にしていく必要があるものなのである。          98/10/29

 


 

 初等社会科教育法における模擬授業づくりについて

              

                    社会科教育  西内 裕一

 

   はじめに

 小学校教員養成課程において、教科教育法の重要性は言を待たないが、その中で実践的指導力を養う効果的な方法の一つとして、模擬授業づくりがある。
 模擬授業については、多くの大学で行われているが、ある意味では当然かもしれないが、その多くは指導要領や教科書に準拠した内容で行われている。
 しかしながら、初めて行うであろう模擬授業づくりにおいて、この枠組みは、学生たちの発想や思考のすじみちを限定してしまい、豊かな成果を上げることは困難である。
 そこで、比較的自由な発想で単元構成ができ、そのうちの一時間分をつくるというようなかたちで作業ができるよう10のテーマを設定し、グループを作ってそこでのディスカッションやフィールドワークをもとに、模擬授業づくりを構想し、実践してみた。
 まだまだ不十分なところが多いが、10年間実施したということでもあり、中間的な報告と総括を行いたい。

 T 初等社会科教育法における模擬授業づくりの位置づけ

 福島大学教育学部においては、初等教科教育法科目はすべて3年次に履修することになっている。また中等教科教育法も3年次科目として設定されているため、幼稚園課程の学生の「保育内容の研究」の2年次からの履修を除いては、すべての学生が、3年次に初めて教科教育法を履修するのである。
 そこで、初等社会科教育法B・C・Dにおいては、以下のようなカリキュラムを構成している。

 イントロダクション
 「実践記録をよむ」
 模擬授業づくりについて(レポート作成)
 模擬授業づくり(グループワーク)
 模擬授業の実施

 イントロダクション(第1回目)では、まず、この授業の流れを説明する。
 そのあと、3つの指示「テキスト(『新しい小学校社会科へのいざない』地歴社19)を必ず持参すること」「ミニレポート、作業記録用紙を提出すること」「授業通信を保存しておくこと」をし、参考文献、雑誌を紹介する。
 そして、前半部である「実践記録をよむ」で行うミニレポートの作成方法を実習する。 テーマは、「これまで受けてきた社会科の授業において、最も印象に残っていること」「こんな社会科の授業をしたいということ」「ズバリ、「社会科」とはなにか」という3つで、約10分で記入してもらう。記入したものは、提出してもらって終わり。まだ読み上げたり、コメントを付けたりはしない。
 第2回目からは「実践記録をよむ」で、小学校各学年の実践記録を一回に一つずつ読んでいく。
 「実践記録をよむ」が終わるところに合わせて提出できるよう「模擬授業づくりについて」というレポートを作成させる。作成期間は4週間、参考文献として、テキストの第2章「授業をつくる」を示しておく。
 このレポート作成の作業は、山口大学での模擬授業づくりを間接体験するようなものであるため、自分たちがこれから行う「模擬授業づくり」のイメージを得るのに大いに役立っているようである。
 元小学校教師の半沢光夫氏による特別講義−「教員養成実地指導講師」として、福島県歴史教育者協議会の半沢光夫氏に、1コマの特別講義をお願いしている。これは、氏の豊かなフィールドワークに支えられたもので、使用されるスライド・OHP の量に圧倒されるが、地域を教材化するということがどういうことであるのか、また、どのようにすればいいのかということが、実感できるいい機会となっている。

 U 模擬授業づくりの構造と展開

 模擬授業づくりは、おおむね次のような手順で行っている。

 グループ編成
 班長、記録係の選出
 グループでの作業
 全体報告会
 模擬授業実施班の選出
 模擬授業の実施
 事後検討会

 模擬授業づくり(グループワーク)では、まずはじめに班編成を行う。前時のミニレポートに記入してもらった希望動向に基づいて、班編成をする。だいたい10から15くらいの班をつくっている。
 座席を移動してもらい、班ごとに一つのテーブルにつくようにする。
 そして班内で簡単な自己紹介をし、班長を決める。班長以外の人から、回り持ちの記録係を決める。
 そのうえで、第一回目の班作業を行う。
 第一回目は、とにかくいろいろなアイデアを出し合うことに限定して、とことん話し合ってもらう。「なぜこのテーマを選んだのか」「このテーマの中のどういう問題を扱うか」「私のこだわり」など、グループの親密性がすすむことと、話し合いの進展をはかっていくこととを課題としているのである。
 第二回目、第三回目は、話し合いの深化をはかることをねらいとして、自由にやってもらう。
 班によっては、図書館に行ったり、実践センターの資料室に行ったり、というのがでてくるが、授業の終了10分前までに戻ってくることを条件にすべて許可している。
 第四回目もしくは第五回目に、班ごとの授業プランを発表してもらい、投票で模擬授業をするグループを選定する。
 その際、模擬授業のタイトルをつけてもらっている。
 ちなみに、97年度後期のタイトルおよび獲得した票数は、

 1(原子力発電) 僕らのエネルギー                      0
 3(北国の暮らし)しょっぱいの、好き?                   22
 4(農林水産業) 牛を飼う人々の生活                   3
 6(日本の歴史) 赤米で知る弥生時代                   20
 7a(産業・経済) リカちゃん物語                       4
 7b(産業・経済) どうしてねだんが違うのか−テレビから見る流通のしくみ  3
9a(環境問題)  地球って水の惑星?                    4
 9b(環境問題)  ダイオキシンをやっつけろ                26
 9c(環境問題) いらなくなったタイヤのゆくえ               5
10(人権問題)  長いみちのり                       7

 であった。
 そこで、9b 班に、1月22日に模擬授業を、3班は1月29日に模擬授業をやってもらうことになった。  

 V テーマ、タイトルと内容の概要

 W 若干の考察と今後の課題

 教員養成学部において、実践的指導力の基礎を養う必要があることは、言をまたない。その具体的方法の一つが模擬授業づくりであり、模擬授業の実施である。
 筆者が始めた10年前に比べて、近年は教育法等の中で模擬授業を行うケースが増えてきている。


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