その139 ■人間と実績のピラミッド・・

 一人っ子は家庭の中で競争相手がいないからのんびりしていて甘えん坊が多いという話を聞きます。これは一般論なので、全ての一人っ子がそうとは限りませんが、そういう傾向は少しあるんじゃないかと私は思います。兄と弟では弟の方がスポーツ選手として大成する割合が高いなんて研究もあり、これは弟の方が、最初からいつも身近に目標とすべき(そして小さい頃は大抵かなわない)存在(兄)がいるという競争的環境が整っているから、と考えれば納得がいきますね。(これも一般論なので、長男が総じてダメだなんて言うつもりは全然ありませんよ念のため)。もう少し人数を増やしてスポーツ集団を考えたとき、やはり同じようにある程度の集団内競争が成立するくらいのメンバーがいないとなかなか強くなれないんじゃないかなと思います。例えばバレーで言うと、スタメンは7人(含リベロ)として、最低1.5倍(10〜11名)、できれば2倍(14名)くらいの人数がいて、それぞれのポジションをスタメンと控え選手が争う環境があった方が、互いに刺激し合ってより頑張れるんじゃないでしょうか?人間どうしても、自分の身分が今のままで安泰と思ってしまうとなかなか必死になれないですよね。ほら、ゴール直前ですぐ目の前を走っている人がいるとその人を抜こうと思ってラストスパートできるけど、自分一人だとラストを流してしまう長距離走と一緒ですよね。(大学の先生も教授になるまでは審査があるのでみんな論文を書こうと頑張りますが、教授になったとたん全然書かなくなる人にも当てはまります。)バレーの試合でも、一方的にリードして22〜23点くらいまでくると、心のどこかで「もう勝ちは決まりだな」と思い、最後を遊んだり、流したりしているうちに連続得点で追い上げられて焦るなんてこと、結構あります。だから格下のチームと練習試合をやるときにはしっかり課題を設定しないと、結局ダラダラ相手に合わせてしまいちっとも自分たちの練習にならなくなるので注意しましょう。「あんなプレーヤーになりたい」という憧れや、「追い抜かれるかも知れない」という危機感は上を目指して頑張るためのいい刺激になるということだと思います。そしてそうやってある程度の人数が集まって互いにしのぎを削り上を目指す「人間のピラミッド」が出来、それぞれの段階の人が上を目指すことによってその頂点が押し上げられチーム力がアップする、ということですね。これはスタメンギリギリのチーム構成ではなかなかうまく行きません。「少数精鋭」も程度問題ということだと思います。

 もう一つチーム力を構成する要素として、「実績のピラミッド」もあるんじゃないかと思っています。これは、これまでどういうレベルで試合を積み重ねてきたか、という実績や経験がチーム力を少しずつ押し上げていく要因になっている、という見解です。今まで弱かったチームがいきなり優勝する、ということは稀で、たとえ良いメンバーが突然揃っても実績や経験がないと、優勝する、勝てる、という自己イメージが持てなくて、接戦になると結局は伝統強豪校の「自分たちが負けるはずがない」「ここで負けるわけにはいかない」という自己イメージの強さの前に屈してしまう、という場面を沢山見てきました。急に強くなっても勝ち進むうちに、「ホントに勝っちゃっていいのかな?」「ここまでやれたんだからもう充分」なんて心のどこかで勝つことに遠慮しちゃうような感じです。そうやって決勝なんかで強豪校に負け、次第に決勝に進むことが当たり前になってくるとやっと「次は絶対にあの強豪校に勝つ!勝てる!」と信じることが出来るようになり、やがて勝利を得ることが出来る。そうやって少しずつ時間をかけて一つ一つ実績を積み上げていく、いわゆる「実績のピラミッド」は確かに存在するのではないでしょうか。

 お陰様で我が福島大男子バレー部は4シーズンぶりに東北1部リーグへ昇格を果たしたわけですが、それは今回、1年生が8人入ってきて人間のピラミッドが大きくなったこと、そして4回連続で入れ替え戦に出場し、入れ替え戦に出るのが当たり前になっていて、「実績のピラミッド」も積み上げてきたことと無関係ではないでしょう。「ローマは一日にしてならず」なんて言葉がありますが、この言葉に付け加えて、「ローマは一日にして、かつ一人にしてならず」がより正しい表現ではないかと思います。今のサッカー日本代表だって、ドーハの悲劇や多くの国際試合、個人の海外移籍先での経験を含めた実績のピラミッドと、日本のサッカー人口増加という人間のピラミッドが現在のレベルに押し上げたと言って間違いないでしょう。だから今回、入れ替え戦に勝利した学生には「決してスタメンの6人の力だけで勝ったのではない。それ以外の現在の部員と、それ以前のOB達が積み上げた実績の力があってだよ」と伝えています。ともすれば若い時は、伝統の存在やOBの話をうっとうしく思うことがあります(私もそうでした)が、自分が引退し歳をとってOBになってみると、現在のチームが自分たちの伝統を受け継いでいてくれたり、さらに活躍してくれたりすると、ほとんど直接的なつながりはなくても嬉しく思ったりするものです。・・これって、孫の成長を喜ぶ、遠く離れて暮らす実家の祖父祖母の心情と同じようなものではないでしょうか。だから現役選手の皆さん、年一回のOB会ではわざわざ出席してくれたOBの話は一生懸命聞くようにしましょうね。いずれ自分もOB側になるわけですから・・。(こんなこと考えるようになるなんて、自分も歳とったなぁ・・あ、もうすぐ41か!これじゃあ「いいか、俺が若い頃は戦争中で・・」なんてすぐ話し始めるおじいちゃんと大して変わらないかも・・)

その140 エントロピー収束のエネルギー・・